電力の脱炭素化を検討するにあたっての電力調達/4 月から電気代料金値上げの背景にある「容量拠出金」について解説
自社の炭素排出量を削減していく際、フレームワークとしてScope1~3というものがあります。Scope1は「自社が直接排出する温室効果ガス」、Scope2は「自社が間接排出する温室効果ガス」、Scope3は「原材料仕入れや販売後に排出される温室効果ガス」を指しています。
トレンドにおいては、Scope1~3の全てを計算することが望ましいですが、先ずはScope1・2から取組むことが現実的です。なぜならば、ある程度自社努力で取組みが進められるからです。
今回はその中でも、「Scope2:自社が間接排出する温室効果ガス」の検討時に課題となる電力会社の選定時にこれから気を付けなければならない点についてお伝えをしていきたいと思います。
1.Scope2 の取組において電力調達は外せない議論
「Scope2:自社が間接排出する温室効果ガス」という項目ですが、結論何を指しているのかというと、自社の事業活動において外部から調達しているエネルギーに関して、その外部機関がエネルギーの生成時に発生する温室効果ガスです。要するに他社から供給された電気・熱・蒸気等のことを指しています。
様々な事業活動の在り方があると思いますが、大半の事業活動においては電気で稼働する機器・設備を用いられていることかと思いますので、ここの温室効果ガスの削減は大きな意味を持ちます。
Scope2の温室効果ガス排出量を削減するためには、主に以下の方法が挙げられます。
・事業所におけるエネルギー使用量の削減 : 省エネ活動の推進 等
・エネルギーの自社調達 : 自家消費太陽の導入 等
・エネルギーの調達先(プラン)を切り替える : カーボンフリー電力の活用 等
それぞれに対して、コストが生じる場合もあります。例えば、省エネ活動を推進する際はオペレーション改善といった努力によるものもあれば、省エネ機器の導入といったコストを一定投下して行うものもあります。自社調達においてもエネルギーを生み出すための機器の導入といったコスト投下が先行することとなります。(この点において、PPA(電力購入契約)は仕組みとして、リースのように支払い方法を工夫することで敷居を下げる有効な手段となります)
カーボンフリー電力の活用という点においては、現在多くの電力会社(小売電気事業者)があり、また多岐にわたる電力プランが準備されているため、コストメリットを受けながら温室効果ガス削減が可能となるケースもあります。
2.2024 年 4 月以降に電力会社を選ぶうえで忘れてはいけない「容量拠出金」
さて、今回は電力会社の切り替えについて言及していきたいと思います。前述のとおり現在多くの電力会社(小売電気事業者)があり、また多岐にわたる電力プランが準備されているため、コストメリット(電気単価を落としながら)脱炭素が実現するというケースもあります。
※既存の電力会社との電力単価契約との比較となりますので、絶対に安くなるという保証はない
そのような背景から、私達も電力会社の切替えに関してのご相談をいただくのですが、多くの事業者様が悩まれていることの一つとして「電力会社の比較をどうすればよいかわからない」というものが挙げられます。いろいろなプランの提案を受けるものの、結局どのプランが最適なのか、特に電気というインフラ領域なので「安かろう・悪かろう」ということは絶対に避けたい、さらに、全社に波及することですのでリスク要因が目立ち、なかなか取り組み切れていないという実情も多くあります。
実際に電力会社の比較検討を進めていくうえで、「その電力会社が解散する」という最悪なケースにおいても対応策は準備されているのでご安心をいただきたいという前提の上で、その企業の経営安定性と提案を受けるプランのコストメリットの2つの観点が重要となります。
さて、ここで2024年は忘れてはいけない項目があります。
それが、2024年4月から請求が始まった「容量拠出金」の存在です。
結論、4月以降一律で電気代が上がることになります(電力会社によっては若干のズレはあるようです)。
そのため、提示された見積書を、内容を理解せずに受け取ってしまうと「あれ?高くなった?」と思ってしまうことも。
3.「容量拠出金」により電気料金は値上げ。その仕組みは?
さて、その話題としてある「容量拠出金」。
総じて2~3円/kWhほどの値上げにつながっていると思われます。
つまり、昨年1年間の電気代金と、新しいお見積もりを比較しても、新しいお見積書は容量拠出金という新しい項目が加味されているため、ベースが上がってしまっているという実情があります。
「また値上げ?」
という思いをお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、結論また値上げです。
その仕組みについて、是非知っていただければと思います。
まず、この「容量拠出金」の設定の背景ですが、以下のような目的を持っています。
・電気市場の自由化に伴い、電気代金(kWh)の低下が生じている
・このままでは発電事業者側の採算性は悪化傾向が進み、発電施設への投資が減ることが予想される
・結果、未来の需給バランスが崩れ、電気代が高止まりすることが予想される
・それを未然に防ぐために設定されているのが容量市場である
容量市場では発電事業者に対して「4年後の電力供給に対するコミット(一定要件あり)」をオークション形式で募り、その4年後に約定価格の総額を小売電気事業者から「容量拠出金」として徴収し、そのコミットを履行した成果として発電事業者に供給するという流れをとっています。
2024年4月から小売電気事業者からの請求がスタートするのですが、これは、2020年のオークション(既本取組みは4年前に動いていた!)結果に基づくものであるということを認識することが必要です。
発電事業者側の中でもFIT電源はオークションに参加できないなどのルールは存在します。ただ、このオークションに参加すれば、今までにはない新たな収益源を発電事業者側は得ることができ、また、それを次の発電施設投資・現状施設の改修に用いることで未来の安定的な市場を形成することになります。
そして、この小売電気事業者に対する請求額が、同事業者の原価となり、それが需要家(皆さま)の電気代の請求額に上乗せされる形となります。この請求の形もルールにはなっていない、かつ、以下の状況から、なおわかりづらくなっている実情があります。
・小売電気事業者ごとの請求額は一定ルールにおける割合によるものであり一律ではない
・小売電気事業者によっては基本料金に含めている場合、別段で抜き出している場合などが見受けられる
4.今から電力調達方法を検討していく方法と進め方/船井総合研究所がサポートできること
さて、ここまでの点をまとめますと、
・電力会社・プランの切替えは脱炭素において有効な手法である
・ただ、4月から新たな制度が動いており、値上げすることとなる
・その点を踏まえ、本当の意味での、最適な電力プランの選択を進めていくことが求められる
ということが挙げられます。
今回の容量拠出金に限らず、再エネ賦課金や燃料調整単価といった項目があり、多くの項目において比較検討をしていかなければ小売電気事業者の強み・弱みは見えてこないものです。わかりづらく、理解するまでに一定の知識や経験が求められることは事実といえます。
船井総合研究所では、皆様の脱炭素の推進という側面において、電力会社の切替えに関してもサポートしております。電力市場の理解や、比較検討における知見の提供等が可能です。電力の切替え自体は契約書1枚ですが、インフラ領域ですので、適切な判断が求められる部分です。会社として推進していくための、ハンズオン支援も可能です。お気軽にご相談ください。
【今までの容量市場のメインオークションの結果 2024 年 5 月 13 日作成】
単位 | 2024 年度分 | 2025 年度分 | 2026 年度分 | 2027 年度分 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 約定総容量 | 万 kW | 527.6 | 541.4 | 523.1 | 519.2 |
約定総額(経過措置控除後) | 億円 | 499.5 | 307.5 | 387.2 | 601.8 | |
約定エリアプライス | 円/kW | 14,137 | 5,242 | 8,749 | 13,287 | |
東北 | 約定総容量 | 万 kW | 1,759.6 | 1,610.7 | 1,661.0 | 1,773.3 |
約定総額(経過措置控除後) | 億円 | 1,713.7 | 438.6 | 808.6 | 1,387.9 | |
約定エリアプライス | 円/kW | 14,137 | 3,495 | 5,833 | 9,044 | |
東京 | 約定総容量 | 万 kW | 5,282.2 | 5,561.7 | 5,353.7 | 5,541.7 |
約定総額(経過措置控除後) | 億円 | 5,325.6 | 1,523.1 | 2,641.0 | 4,632.3 | |
約定エリアプライス | 円/kW | 14,137 | 3,495 | 5,834 | 9,555 | |
中部 | 約定総容量 | 万 kW | 2,527.1 | 2,376.0 | 2,343.2 | 2,323.4 |
約定総額(経過措置控除後) | 億円 | 2,398.2 | 651.1 | 1,152.9 | 1,593.7 | |
約定エリアプライス | 円/kW | 14,137 | 3,495 | 5,832 | 7,823 | |
北陸 | 約定総容量 | 万 kW | 546.7 | 549.4 | 475.7 | 457.0 |
約定総額(経過措置控除後) | 億円 | 480.8 | 148.1 | 229.5 | 300.7 | |
約定エリアプライス | 円/kW | 14,137 | 3,495 | 5,832 | 7,638 | |
関西 | 約定総容量 | 万 kW | 2,821.4 | 2,617.3 | 2,612.4 | 2,886.1 |
約定総額(経過措置控除後) | 億円 | 2,625.8 | 718.1 | 1,270.3 | 1,928.8 | |
約定エリアプライス | 円/kW | 14,137 | 3,495 | 5,832 | 7,638 | |
中国 | 約定総容量 | 万 kW | 763.3 | 780.8 | 816.2 | 837.8 |
約定総額(経過措置控除後) | 億円 | 658.3 | 210.6 | 397.6 | 554.4 | |
約定エリアプライス | 円/kW | 14,137 | 3,495 | 5,832 | 7,638 | |
四国 | 約定総容量 | 万 kW | 700.0 | 746.3 | 795.3 | 786.5 |
約定総額(経過措置控除後) | 億円 | 629.7 | 202.7 | 383.8 | 517.1 | |
約定エリアプライス | 円/kW | 14,137 | 3,495 | 5,832 | 7,638 | |
九州 | 約定総容量 | 万 kW | 1,734.4 | 1,750.1 | 1,690.5 | 1,619.8 |
約定総額(経過措置控除後) | 億円 | 1,560.3 | 940.0 | 1,233.1 | 1,622.9 | |
約定エリアプライス | 円/kW | 14,137 | 5,242 | 8,748 | 11,457 |
(出典:電力広域的運営推進機関資料を基に作成)
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