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脱炭素コラム

シナリオ分析入門 IPCC AR6によるシナリオ分析の理解

多くの事業者が環境関連の対外的な発信をしていく上で、つまずくポイントがシナリオ分析です。シナリオ分析を行うために、前提としてどのようにシナリオが定義されているかを知らなければなりません。シナリオ分析で用いられるシナリオはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)以外にもありますが、代表的なIPCC AR6(第六次評価報告書)について、その出来上がり方を見ていきましょう。

 

その出来上がりまでの流れを見ていくことにより、シナリオ分析の観点なども見えてくることもあるでしょう。

 

1.IPCC AR6を見る前に知っておくべき放射強制力とRCPシナリオ

RCP2.6は低位安定化シナリオ…と言われていますが、このRCPと数字は何を意味しているのかを見ていきましょう。
まずは、この数字の部分です。AR5(第五次評価報告書)においては、RCPの後に続く数字は2.6、4.5、6.0、8.5といった数字が見られますが、これは放射強制力と呼ばれる数値が用いられています。

 

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放射強制力

地球がどれくらい温かくなるかを決める力を指す。
地球の温度の入出力は太陽光、地球の反射、地球からの放射が挙げられる。
これを遮るものがなければ自然体となるが、ここに二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが入ってくることで、放熱がしにくくなる。この時の温まり具合を示し、単位はワット毎平方メートル(W/m2)である。
正の場合は温める方向に、負の場合は冷やす方向に影響する。

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上記のように、放射強制力は地球そのものを温める状況になっているのか、冷ます状況になっているのかを示すものとなります。では、RCPシナリオとは何かというと、2100年時点において放射強制力がどの程度になっているかを、それを実現させるためにどのような対策が必要なのかを示すものとなっています。

 

RCPは代表濃度経路(Representative Concentration Pathways)の略となっており、2100年時点までにどのような大気環境を経て、その時に至るかを示すシナリオの考え方です。例えば、RCPシナリオで最も低位とされているRCP2.6においては、その補足として「かなり厳しい温室効果ガスの削減対策を講じた場合のシナリオ」という意図があり、企業が同シナリオを選ぶ場合において、そのシナリオを実現させるための行動をとるということを提示することとなります。

 

2.RCPシナリオとSSPシナリオの違いについて

一方、AR6(第六次評価報告書)においては、SSPシナリオというものが用いられています。SSPはShared Socioeconomic Pathwaysの略であり「気候変動研究で分野横断的に用いられる社会経済シナリオ」と訳されます。

 

RCPシナリオは将来2100年における放射強制力の目標を定め、その数値に至るまでの事象について言及をしたシナリオであり、SSPシナリオは社会的な叙述を想定し、その想定において特定の放射強制力を実現しうるために起きる変化に対して言及されたシナリオと言えます。

 

SSPシナリオはRCPシナリオに社会的な出来事を加えて、そのケースによって未来を予測するという考え方になります。

 

3.SSPシナリオにて定義される5つのシナリオ

SSPシナリオにおいては5つのケースが想定されています。
各SSPシナリオを見ていきたいと思います。


各シナリオともに、緩和策の困難度、適応策の困難度が異なっており、以下のように図示することができます。

 

SSP1(持続可能性)

・世界は徐々に、広範囲に、より持続可能な道へと移行

・環境問題に対する限界を認識し、より包括的な開発を重視

・教育と健康への投資は人口構成の変化を加速

・経済成長の重視よりも人の幸福を重視する方向へシフトしていく

・国家間および国家内の不平等は減少

・物質的成長の抑制と、資源およびエネルギーの集約度は低下傾向


SSP2(中庸)

・歴史的パターンから大きく変化しない道を辿る

・開発と所得の伸びは不均等

・持続可能な開発目標の達成に向けて取り組んでいるが、その進捗は遅い

・環境システムは劣化していくが、ある程度の改善

・全体として資源とエネルギーの使用の効率は向上

・世界の人口増加は中程度で、今世紀後半には横ばい

・所得格差は持続するか、ゆっくりとしか改善しない


SSP3(地域間の対立)

・各国は国内問題、あるいは地域問題にますます重点を置くようになる

・政策は安全保障問題に重点が置かれる

・各国は、自国地域内でのエネルギーと食糧安全保障の目標達成に重点を置く

・教育と技術開発への投資は減少

・経済発展は遅く、消費は物質集約的であり、不平等は時間とともに持続または悪化

・人口増加は先進国では低く、発展途上国では高い

・環境問題への取り組みに対する国際的な優先順位が低いため、一部の地域では環境が著しく悪化


SSP4(不平等)

・人的資本への投資の不平等、経済的機会と政治力の格差が拡大

・国家間および国内の両方で不平等と階層化が拡大

・知識集約型および資本集約型セクターと、労働集約型のローテク経済で働く集合体に分かれる

・社会的結束は低下し、紛争や不安がますます一般的に

・ハイテク経済とセクターでは技術開発が進展

・石炭や非在来型石油などの炭素集約型燃料だけでなく、低炭素エネルギー源への投資

・環境政策は、中所得地域と高所得地域の地域問題に重点


SSP5(化石燃料による開発)

・急速な技術進歩と人的資本の開発を生み出す競争市場、イノベーション、参加型社会への信頼が高まる

・グローバル市場の結束はさらに強くなる

・人的資本と社会資本を強化するための健康、教育、制度への投資も盛ん

・経済社会開発の推進は、化石燃料資源の開発や資源とエネルギー集約型ライフスタイルの採用

・世界経済は急速に成長

・21 世紀には世界人口はピークを迎えて減少

・大気汚染などの地域的な環境問題はうまく管理

・必要に応じて地球工学も含め、社会システムと生態系を効果的に管理できる能力

 

4.SSPシナリオをシナリオ分析用に解析する

SSPシナリオにおける5つの世界観については、前述したとおりになります。
この状況では、シナリオ分析では活用できませんので、これにIAM(Integrated Assessment Models:統合評価モデル)を用いて、各パラメータを算定していくこととなります。

 

AIMは主に以下のように用いられるものです。

政策評価
気候変動対策としての政策(例: 炭素税、再生エネの普及促進策)の効果評価

将来シナリオの予測
現在のトレンドが続いた場合や新しい政策が導入された場合の将来の気候や経済の状況をシミュレーション

コストと便益の分析
気候変動対策のコストと、それによって得られる便益(気候変動の緩和、健康への影響の減少など)を比較

 

IPCCのシナリオ分析においては、6種類のIAMを用いて評価を行っているとされています。6つのAIMのモデルは経済・エネルギー・持続可能性・環境・技術など、それぞれ異なる焦点をもったものであり、これらを用いてシナリオとして成立するのかを確認することとなります。

5.SSPシナリオに強制放射力を目標として据える

そして、AIMで評価をしていく中でゴールをどこに据えるかということが最後の論点となります。そこで、強制放射力を用いることとなります。それを一覧化したものが以下の図になります。

 

SSPシナリオにおいて、SSP1-1.9などという記載がありますが、これはSSPシナリオにおける1番の社会を背景に放射強制力1.9W/m2を2100年に実現する世界を予想する際において、どのような事象が世の中に起きるのかを示したシナリオということになります。

 

また、IPCCの報告書の中でよく取り上げられているのは、上記の黄色部分であり、SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP3-7、SSP5-8.5となります。つまり、この数字を見た段階で何番のシナリオで、どの程度温暖化が進んでいるかを示していることとなります。

 

一方、上記の一覧表の中でもAIMで評価を行っていく過程において答えが出ないというケースもあります。それは要するに成り立たないということを指しているということです。

 

また今後、シナリオについてどのような評価観点があり、その影響を自社のシナリオ分析にどのように生かしていくかを取り上げていきたいと思います。

6.船井総合研究所として支援できること

船井総合研究所においては、脱炭素を推進していく上でのサポートメニューを準備しています。
脱炭素領域は取り組み方や方向性がガイドラインとして設定されており、その内容を理解して取組まなければ、時に本質からずれていってしまうこともあります。

取組みの理解から好事例の提示、具体的な行動部分までサポートできることが船井総合研究所の強みです。
相談はお気軽にご連絡ください。

 

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