第13回GX実行会議(2024年10月31日)解説
「30年来の日本経済の停滞を打破し、再び成長軌道に乗せる大きなチャンス」
これは、10月31日に開催された第13回GX実行会議で、GX実行推進担当大臣が冒頭で掲げた言葉であり、同日の新聞記事の見出しにも使われたフレーズです。当初、この会議は「GX2040ビジョン」に向けたスケジュールの一環として進められる予定でしたが、10月末に第13回会議が設定された背景もあり、今回は議論よりも振り返りや方向性の確認に重きが置かれているように感じました。
ただし、内閣と国会の新体制が進む現状において、脱炭素が引き続き国家戦略の重要分野であり、今後もその推進が一層進められることが確認されたと言えます。
1.GX2040ビジョンへの方向性について
「GX2040ビジョンに向けた方向性」は、「たたき台」という表題で掲載されていますが、第12回の内容から大きな変更点は見られませんでした。構成は4つのカテゴリと10の項目で構成されており、それぞれについて振り返りも交えながら解説していきます。
(1)エネルギー・GX産業立地
・電力供給の見通しと供給方法について:可能性を最大限に生かし、投資を促す環境整備
「今後10年の日本における電力需要の想定(第12回)」という資料において、全国需要電力量は2023年に底打ちし、今後増加していく見込みとなっています。その影響要因として取り上げられているのがデータセンター・半導体工場の新増設であり、AIによる生産性向上の恩恵はエネルギー市場においては大きなネガティブ要因となっています。そのため、再生可能エネルギーと原子力への転換が推進される方針ですが、再エネ投資は鈍化しており、原子力も建て替えがなければ容量が減少するため、新たな投資を促す環境整備が必要とされています。
・火力発電の今後:石炭火力は減少、LNGを安定的に供給する仕組みづくり
今の日本における発電の主力は火力発電であり、電源構成では100%中、石炭30.8%、LNG33.8%、石油8.3%という構成比を持っています。まず、この中で削減方向性にあるのは石炭火力であり、COP28において、排出削減対策が講じられていない石炭火力フェーズダウンの加速や、化石燃料からの移行などがUAEコンセンサスとして合意されています。日本においては2019年度対比2022年度で130億kWh以上の削減を実現しており、これは、約11%に相当します。2030年度にはさらに600億kWhの削減を見込み、石炭火力を2019年度対比で約2/3まで減少させる計画です。
一方で、LNG火力発電は継続される方針ですが、LNG製造時のメタン排出や製造・運搬時の温室効果ガス(GHG)排出を可能な限り削減する取り組みが求められています。また、LNG調達の長期契約更新も課題で、過去には逆ザヤや需給バランスの崩れがJEPX(日本卸電力取引所)における取引単価へ影響した事例もあり、安定供給のための契約見直しが重要となっています。
・系統問題:エネルギーを作る場所に産業を集める、全国を網羅する系統
日本では国土が限られているため、脱炭素エネルギーの供給拠点に地域的な偏りが生じることが想定されます。そのため、「需要に応じたエネルギー供給」に加え、「脱炭素エネルギーの供給拠点に立地を集中させる」といった新たな発想が必要です。これにより、効率的かつ効果的な立地誘導を進める重要性が高まっています。従来の企業誘致は地域活性化が目的でしたが、今後は電力供給を考慮した誘致策も求められるでしょう。そのため、官民が連携してこれらの施策を推進することが不可欠です。
・次世代エネルギー源:水素・アンモニアには積極的な支援策を
大前提として、水素とアンモニアの関係性ですが、水素は気体の状態で貯蔵・輸送するには、体積が大きく、高圧にする必要があるなど課題があります。そこで、アンモニアが水素キャリアとして注目されています。アンモニアは水素を多く含む(質量比で17.6%)ことにあわせ常温常圧で液体として存在するため、貯蔵・輸送が容易であるというメリットもあります。
電力の脱炭素化には再生可能エネルギーの活用が進められていますが、熱エネルギーの脱炭素化においては、水素が最も有力な解決策とされています。本来、水素は国内で製造することが望ましいものの、開発が進みスケールするまでの間は、既存エネルギーとの価格差が大きく、普及が難しい可能性もあります。このため、政府は水素の普及を支援するために積極的な支援策を講じることを項目として挙げています。
(2)エネルギー・GX産業立地
・サプライチェーン強化:GX製品において稼ぐ国へ
先進国では、経済への波及効果や経済安全保障の観点から、製造業の役割を見直し、自国にサプライチェーンを集約する動きが進んでいます。この動きは日本でも重要視されるべきであり、特にGX(グリーントランスフォーメーション)分野に関連する製品群については、サプライチェーンを強化することが求められています。すでに、GX製品の構成部品においても、完成品メーカーから脱炭素対応やグリーン調達に関する要請が出始めています。しかし、これら取り組みへの投資における経済合理性には課題も残っており、継続的な支援が必要とされています。
・GXとDX:AIはGXに寄与するようにつなげる
AIが世に広まることは労働生産性の向上に直結することです。あわせて、AIを用いるからこそできることにより再エネ市場はさらに発展・成長することができるでしょう。確かに、AIによりデータセンターにおけるエネルギー需要が拡大することは間違いありませんが、それ以上のメリットを享受することに主眼を置くことが求められています。
・イノベーション創出:技術・ビジネス・スケールの3つの要素をフル活用
GXとDXは、日本が強みを発揮できる成長領域であり、これらを組み合わせた収益性の高いビジネスモデルを構築し、世界市場で展開していく仕組みを考えることが求められています。日本はR&D投資、特許取得、知的財産の活用といったイノベーション資源や技術知見において世界的な実績を持っていますが、商業化においては課題を抱えています。
イノベーションを促進するためには、多様な手法を積極的に活用することが想定されています。たとえば、大企業主導の事業にスタートアップが参画するケースや、海外の学術機関との連携、大企業内でのスピンオフやカーブアウトの推進、スタートアップ主導の事業創出の促進など、これらの事業環境の整備を進める方針が掲げられています。
(3)GX市場創造
・国内制度構築:カーボンプライシングの推進
目指すべきは、「GX製品が非GX製品よりも高く評価される市場環境の整備」です。しかし、これを定量的に示すことは非常に難しいです。「GX製品の調達コストが非GX製品よりも高いこと、GX製品の付加価値が確立していない・不透明」という課題感は国も持っています。この解決策として、①カーボンプライシング、②GX製品自体の付加価値向上の2つが挙げられています。これに合わせて、2024年9月からカーボンプライシング専門ワーキンググループ(WG)が立ち上げられ、議論が進められています。
(4)グローバル認識・ルール
・アジアの視点も加えた体系的・総合的なルール形成
・欧米の情勢も踏まえた現実的なトランジションの必要性
2.与件として提示された世界の動きについて
以上の通り、GX2040ビジョンは今後の脱炭素社会の実現に向けた重要な指針となります。改めて感じられるのは、このビジョンを実現するためには国の強力な支援が不可欠であるという点です。第13回GX実行会議では、諸外国における脱炭素投資の動向について、いくつかの事例が紹介されました。
(1)アメリカ
・IRAを契機とした脱炭素関連投資の増加
インフレ抑制法(IRA)は、2022年8月に米国で成立した法律で、インフレ対策を目的としつつ、気候変動対策、医療費負担の軽減、税制改革など多岐にわたる政策を含んでいます。この法案により、2023年には太陽光発電や水電解装置などのクリーン技術の製造に対し、約425億ドルの投資が実現されています。また、エネルギー省に新設されたクリーンエネルギー実証室(Office of Clean Energy Demonstrations, OCED)では、260億ドル以上の資金を活用し、クリーンエネルギー技術の実証プロジェクトへの支援を行っています。
・最近のアメリカ大統領選挙に関連して、石油業界がトランプ氏に対し、脱炭素政策の継続を求める動きが報じられています。IRAにより、二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術に活路を見出している石油業界は、公的資金を前提とした投資を行っており、脱炭素政策の停止=IRAの見直し=投資の停止という懸念から、このような要請がなされています。
(2)欧州
・EUの産業競争力強化に向けたドラギレポートを公表
脱炭素への取り組みを堅持しつつも、成長を加速させるためにはEU域内への投資拡大や、それに伴う公的資金の投入が必要であると、産業政策の推進の重要性が強調されています。具体的には、欧州ではイノベーションへの投資、高いエネルギーコストへの対策、地政学的リスクへの対応という3つの課題が重要視され、それぞれに対して投資の必要性が訴えられています。
3.まとめ・今後の流れ
ICPの価格設定方法は企業によって様々ですが、他社の方法をそのまま真似るだけでは効果的ではありません。そこで注目されているのがシャドープライスです。シャドープライスは、シナリオ分析を通じて将来の炭素税相当額を設定するため、現実的かつ将来を見据えた価格設定が可能です。
また、世界的な動向を見ると、カーボンプライシングの価格は今後も上昇傾向にあります。各国が環境規制を強化し、企業の脱炭素化を進めているためです。企業はこれらの動きを踏まえ、高めのICPを設定することで、将来の変化に柔軟に対応し、競争力を維持・向上させることが求められます。
さらに、シナリオに応じてICPを見直すことも重要です。時間が経つにつれて環境規制や市場の状況は変化するため、それに合わせてICPも調整する必要があります。初めから高めの設定にする企業もありますが、段階的に引き上げていく方法も有効です。
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