インターナルカーボンプライシングについて
TCFD提言の「指標・目標」やCDPの回答、さらにはISSBが公表したIFRS S2でも取り上げられているインターナルカーボンプライシング(以下、”ICP”に省略)。社内で炭素価格を設定するこの手法ですが、具体的な導入方法や運用について悩む事業者も多いのではないでしょうか。今回は、その取組み方におけるポイントを解説していきたいと思います。
1.なぜICPが重要視されているのか
気候変動はほぼ確実に生じる「将来の問題」といえます。さらに、その過渡期にある現在においても自然災害の増加などで、気候変動の影響を確実に感じるようになりました。その中で、「脱炭素」というテーマは非常に重要なものであると考えます。
「脱炭素」と聞くと、まずコストやリスクを連想しがちです。しかし、この取り組みは単にリスクを管理するだけでなく、新たなビジネスチャンスを見つけ出すことも重要です。地球温暖化がすでに進行している状況では、その対策の機会は明確に見えてきますが、まだ温暖化を未然に防ごうとしている段階では、経済的な合理性を見出すのが難しいこともあります。
そういった中で、「脱炭素はコストだけでなく、環境に配慮した選択が経済的にも選ばれるようにする仕組み」が必要です。このような取り組みがカーボンプライシングです。経済産業省はカーボンプライシングを「炭素排出に価格をつけて排出者の行動を変える政策手法」と定義しています。
その中の一つがICPであり、企業内部で二酸化炭素排出に対するコストを設定するものです。ICPを活用することで、将来の温暖化状況における企業の競争力を事前に評価し、それに基づいた現在の投資を促すことができます。つまり、ICPを導入しない企業は脱炭素社会において競争力が低下する可能性があります。一方、ICPに取り組む企業は現時点では投資が増えるかもしれませんが、脱炭素社会ではカーボンプライシングの影響を受け、競争優位性を持つことが期待されます。また、ICPは脱炭素社会に臨む企業姿勢を表すものであり、CDPの設問や非財務情報としてTCFD提言・ISSB S2で公開を求められています。
2.ICPの活用方法と導入ステップ
ICPの導入・活用には多様なアプローチがありますが、まず最初に取り組むべきはその活用方法を明確にすることです。以下に、主な活用方法と導入ステップを紹介します。
(1)活用方法の設定
ICPは、脱炭素社会の実現を目指すための投資を促進し、それに関連する投資に対して経済的な合理性を提供する手法です。具体的には、設備や機器の導入によって削減される温室効果ガス(GHG)排出量を貨幣価値として評価します。また、社内で環境意識を高めることを目的とした取り組みとしても活用されます。このようにICPは、企業が環境に配慮した投資を行う際の指標となり、持続可能な経営を支える重要なツールとなっています。
活用方法① 投資の基準値での活用
・CO2排出量削減当たりの投資額を指標として設定し、その基準を超えるかどうかで投資判断の参考にします。例えば、再生可能エネルギー設備への投資判断に用いることができます。
活用方法② 投資基準の引き下げ
・環境配慮型の製品と一般的な製品がある場合、ICPを基に環境価値を考慮して投資判断を行います。設備更新時にどの機器を導入するかの判断材料として活用できます。
活用方法③ 脱炭素投資ファンドを構築
・社内の各部門や事業所などの任意の単位で炭素排出量に対して接待した単価で徴収するという制度を用いるものです。徴収された資金は会社全体の脱炭素関連投資に用いられます。単に徴収するという場合もありますし、社内でキャップ&トレード(排出権取引)のような枠組みを設定し行っていくことも考えられます。
(2)炭素価格の設定
上記にようにICPは活用の方法が様々であるために、仮に単価決めをしても運用方法まで確認しないと、その妥当性が把握できません。上記の活用方法を踏まえたうえで、価格設定の方法論に関してガイドライン各種では以下の2つの方法が紹介されています。
炭素価格設定① Shadow price(シャドープライス)
・概要:想定に基づき炭素価格を設定
・数値:外部価格の活用(排出権価格等)、各種シナリオから情報を引用して算定等
炭素価格設定② Implicit carbon price(インプリシットプライス)
・概要:過去実績等に基づき算定して価格を設定
・数値:同業他社価格のベンチマーク、投資を促す価格に向けた社内討議、CO2削減目標より数理的に分析
上記の方法論が明確になれば、ベンチマークにする企業も定まります。また、世の中の流れを踏まえたうえで自社なりの単価設定ができるようになります。
3.ICPの設定価格の方向性
ICPの価格設定方法は企業によって様々ですが、他社の方法をそのまま真似るだけでは効果的ではありません。そこで注目されているのがシャドープライスです。シャドープライスは、シナリオ分析を通じて将来の炭素税相当額を設定するため、現実的かつ将来を見据えた価格設定が可能です。
また、世界的な動向を見ると、カーボンプライシングの価格は今後も上昇傾向にあります。各国が環境規制を強化し、企業の脱炭素化を進めているためです。企業はこれらの動きを踏まえ、高めのICPを設定することで、将来の変化に柔軟に対応し、競争力を維持・向上させることが求められます。
さらに、シナリオに応じてICPを見直すことも重要です。時間が経つにつれて環境規制や市場の状況は変化するため、それに合わせてICPも調整する必要があります。初めから高めの設定にする企業もありますが、段階的に引き上げていく方法も有効です。
4.ICPをきっかけにビジネスチャンスにする事例
ここまでは、自社におけるICP活用という点について言及しました。まずは、自社でICPを導入してみるという部分が第一歩目であることは間違いないですが、一方で、このICPはビジネスチャンスを生みます。環境配慮製品が選ばれる可能性が生まれているということです。
最近では、カーボンフリー配送などの脱炭素に貢献するサービスがメディアで紹介されることも増えています。これらの取組みは、感情に訴えるだけでなく、ICPの流れに沿った合理的な経済判断として評価されています。
自社の商品が脱炭素に役立つものであれば、ICPを使ってお客様の投資基準を理解することができ、より効果的なマーケティングが可能になります。こうした事例からも分かるように、ICPは企業にとってリスク管理だけでなく、持続可能なビジネスモデルを築くための重要なツールとなっています。
5.まとめ
インターナルカーボンプライシング(ICP)は、企業が持続可能な未来を築くための有効な手段です。気候変動によるリスクを経済的に評価し、将来に向けた準備を進めることで、企業は競争力を保ちつつ環境にも貢献できます。また、ICPはビジネスチャンスにもつながります。自社のプロダクトを販売していくうえで、環境配慮事項を価値に置き換える手法ともいえます。これからの脱炭素社会において、カーボンプライシング・インターナルカーボンプライシングに関する情報収集はより重要となっていきます。
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